引用
ハードボイルド探偵小説の名匠レイモンド・チャンドラーは、「ヒーローとしての私立探偵」を、「卑しい街を行く騎士」という言葉で形容した。セイディが行くのも卑しい街だ。そこは子どもが行くべきではない場所であり、そこを行くのは大人の仕事のはずである。でも彼女にふりかかったいくつもの不幸が、彼女を卑しい街での「孤独な正義」の遂行に向かわせた。しかもこの騎士には輝ける甲冑もなければ剣も槍もなく、くまびれたTシャツと煤けたブランドに染めた髪と、ポケットのなかのナイフと、命がけの決意のみがある。それだけで武装した少女。こんなに悲壮なハードボイルド・ヒーローを私は知らない。
p.120 ・ Chapter4 銃を持てない娘たち
