引用
アイヒマンがいかに陳腐で、どこにでもいそうな人間だったとしても、彼を死刑にすること自体にはアーレントも反対していません。ただ、彼を死刑に処すべき理由は、彼に悪を行う意図があったかどうか、彼が悪魔的な人間がったかどうかということとは関係なく、人類の「複数性」を抹殺することに加担したからだと主張しています。 或る〈人種〉を地球上から永遠に抹殺すること公然の目的とする企 てにまきこまれ、そのなかで中心的な役割を演じたから、彼は抹殺 されなければならなかったのである。 人間は、自分とは異なる考え方や意見をもつ他者との関係のなかで、初めて人間らしさや複眼的な視座を保つことができるとアーレントは考えていました。多様性と言ってもいいでしょう。アイヒマンが加担したユダヤ人抹殺という「企て」は、人類の多様性を否定するものであり、そうした行為や計画は決して許容できないというわけです。
p.183 ・ 第4章「凡庸」な悪の正体
